コーポレートを競争力の源泉に。既存システムの総入れ替えを実行し、「勝てるバックオフィス」構築へ進む、グリー新設子会社REALITY Studiosの胆力
引き続き市場の拡大が予想されるVTuberプロダクション事業をさらに強化するため、親会社であるグリー株式会社の100%子会社として2023年1月に設立されたREALITY Studios株式会社。既に先行プレイヤーが多数存在し競争の激しいこの領域において、後発のREALITY Studiosが事業を成長させていくためには、強固なバックオフィス体制の構築が急務だった。
この課題に果敢に挑んだのが、コーポレート部部長の武田幸輝氏だ。REALITY Studiosの設立以前から、グリーグループでVTuber事業に継続的に関わり、新会社立ち上げに尽力してきた武田氏。ビジネスモデルは十二分に理解していたが、いざ描いた事業計画を実行に移そうとしてみると、机上の数字と現場オペレーションの間に大きな乖離があることがわかった。ゲームビジネスを中心に成長してきた親会社・グリーとVTuberプロダクション事業を手掛けるREALITY Studiosとでは、事業特性がまるで異なっていたのだ。
「このままではとても回らない。すべてを1から組み直す必要がある」と覚悟を決めた武田氏は、そこからREALITY Studiosの事業特性に最適化したシステムとオペレーションの再構築に着手。メリービズのコンサルティングサービス『メリービズ経理DX』を活用し、経理を中心としたバックオフィスシステムの総入れ替えプロジェクトを成功させた。
親会社視点での全体最適と、新会社としての個別最適というジレンマもあったなか、REALITY StudiosはどのようにしてスピーディーなバックオフィスDXを実現したのか。武田氏に、プロジェクトの舞台裏について伺った。
REALITY Studios株式会社
- 設立年
- 2023年1月
- 事業内容
- VTuberプロダクション事業
課題・背景
- 新設子会社として設立。親会社のシステム・オペレーションの踏襲は難易度が高いと判明
- 競合他社を追随するには、VTuber事業特有の小規模・多頻度取引への対応が不可欠
- 従来のバックオフィス業務は複雑化しており、実際のコストや業務フローは不透明
解決策
- 経理を中心としたバックオフィスシステムの総入れ替えプロジェクトを開始
- 現状分析と新たな業務フロー構築を実施し、足元の業務をアウトソーシングへ移行
- 親会社と連携し、事業特性に合わせた十分な権限移譲と、柔軟なシステム設計を実施
導入効果
- 業務効率・コスト観点では従来比から約半減。事業特性に合わせた経理体制を構築
- システム連携、自動化、業務可視化が進み、大幅な効率化を実現。改善点の特定も容易に
- 勝てる組織へ。競争力の源泉となる、筋肉質なコーポレート部門の構築に向けて前進
新規事業で「勝つ」ために、システムの総入れ替えを決意
――まずは、REALITY Studiosさんの事業概要について教えていただけますか。
REALITY Studiosは、2023年1月にグリー株式会社の100%子会社として設立された会社で、主にVTuberのプロダクション事業を行っています。VTuberのタレントさんのプロデュースをしたり、タレントさんと一緒に企画を考えながら、ユーザーの皆さんにコンテンツをお届けしており、現在約60名のタレントが所属しています。
グリーグループでは、REALITY Studios設立以前からVTuber関連事業を行っていたのですが、今後いっそうこの領域に注力していくべく、プロダクション事業を切り出して新会社を立ち上げたという経緯です。
――武田さまは、バックオフィス機能全般の責任者として新会社立ち上げにコミットされてきたとのことですが、REALITY Studiosのバックオフィスには、具体的にどのような課題があったのでしょうか。
もともとは、グリーグループの管理方針やシステム構成、オペレーションに則った形でバックオフィス機能を運用していたのですが、机上の数字である事業計画を現場のオペレーションに落とし込む際に、従来通りのやり方では絶対に回らないだろうなと感じました。すべてを根本から変えないと、この事業目標は到底達成できないなと。
というのも、従来のグリーグループのビジネスとREALITY Studiosのビジネスでは、まったく事業特性が異なるのです。具体的に言えば、グリーグループはゲームビジネスを起点にシステムを構成してるので、1件あたりの取引額が大きいんですよ。そして、1件あたりの取引額が多い分、取引先の数はそんなに増えない。スマホゲームに至っては、売上は大手の複数社からしか入ってきませんし、原作の権利を持っている出版社やクリエイターを抱えるアートハウスの数もそこまで多くはない。そのため、時間をかけてでも契約書を丁寧に巻いたり、間違いが起きないよう、手堅く進行することが求められました。
一方、REALITY Studiosのビジネスにおいては、事業のコアであるタレントさんは個人の方ですし、キャラクターデザインなどの制作物も、個人のクリエイターさんに発注するケースが多い。そうした個人の方や比較的小規模なお取引先の方に、従来のグリーグループのオペレーションを適用しようとすると、「契約が遅い」「これなら他の事務所でやった方がいい」とご指摘いただくことがあるんです。
また、「ライブ配信」という名にもあるように、VTuber事業はライブ性の高い事業で、「明日の配信のためにこの備品が必要」といったことがしばしば起きるわけですが、その際従来通りのルールで稟議を回していては、到底間に合いません。すでに複数の競合企業がいた中で、後発の私たちが彼らに追いついて事業を成長させていくためには、REALITY Studiosに合ったバックオフィスシステムやオペレーションを再構築し、システムやルールのボトルネックをすべて取り除く必要があると思いました。
経理を押さえれば、あとは自然に押さえられる
――そこで、基幹システムの総入れ替えという大プロジェクトに着手されたわけですね。
はい。「コーポレートのあらゆる機能領域をDX化する」というコンセプトのもと、業務、経理、法務、人事のシステムの切り替えを同時平行的に進めていきました。中でも最も重要だったのが経理のDXで、迅速かつ失敗なく進めるために、コンサルティングを活用することに決めました。
――どのような点で、経理が重要だったのでしょうか。
そもそも、ビジネスはキャッシュの動きがすべてであり、キャッシュの動きを捉えるということは、経理を起点に考えるということです。経理システムには、この取引先にはいつ、いくら支払ったのか、今月どのぐらい支払い先が増えたのか、いつまでにいくら支払わないといけないのか、といった過去から未来へのトランザクションがすべて残るためです。
そして、キャッシュの動きを前提に経理を押さえることができれば、支払いに至るまでの関連業務も自然と押さえられるだろうと考えていました。支払うためには契約が成立していなければなりませんし、契約を結ぶには取引先の登録や反社チェック、社内稟議も終わっていなければなりません。つまり、経理、法務、取引先のマスタ管理といったあらゆるバックオフィスシステムは有機的につながっているのです。その間に断絶があると、どこかでオペレーションコストが跳ね上がったり、ボトルネックが生じます。その点、経理システムを中心にその他のシステムを構築していけば、自然にシステムをつないでいけるのではないかと考えました。
――まさに、仰る通りですね。経理DXコンサルティングの委託先選定にあたっては、どのような判断軸のもと、検討を進めていかれましたか。
「経理DX」や「経理業務のBPO」を謳われている企業さん3、4社の中から、だいたい3つくらいの軸で検討を進めていました。
1つ目は「インパクト」。これはシンプルに、業務改善によってもたらされる効果の大きさですね。
2つ目は「コスト」です。従来の経理コストと、システムを入れ替えメリービズさんのようなアウトソーシングサービスを利用したときのランニングコストを比較したときに、どちらが妥当性が高いのか。
3つ目は「スピード」と「柔軟性」です。既存のルールに当てはめた状態では絶対にスピードが出ないため、新たなルールを構築した上で、柔軟性を持ちながらオペレーションをしていただけるパートナーを探していました。検討していた他の事業者の中には、「経費の精算と基本的に支払いは月1回です」といったところもあったのですが、そうしたところは「スピード」と「柔軟性」の観点からお断りしていきました。
一方、メリービズさんの場合には、スマートニュースさんなどの導入事例記事から、インターネット領域やデジタル領域に一定の親和性があるのではないかという印象を受けていました。御社であれば、REALITY Studiosのトランザクションの多さとスピード感に、対応いただけるのではないかと。
徹底的に現状分析をしたことが、プロジェクトの成功につながった
――3ヶ月間の伴走支援期間は、どのように進みましたか。
振り返ってみると、最初の1ヶ月半くらいは、ひたすら現状分析に費やしていましたね。後の工程は大丈夫なのかと不安になるくらいのリソースを投下しましたが、結果的にはここでしっかり現状分析をおこなっておいて、非常によかったように思います。
「なんとなくうまくいっていない」「ここにボトルネックがありそう」といった状態を解決するためには、現状の業務フローをきちんと洗い出す必要があるわけですが、メリービズのコンサルタントの方に入っていただいて、既存の経理部隊へのヒアリングを行いながらフローを洗い出していくと、もともとあった業務フロー図と実際のオペレーションの間にもズレがあったことがわかりました。
また、事業部門の人にとって、バックオフィス部門はブラックボックス。「請求書を回せば勝手に支払いが進む」「ボタンを押せばそのうち取引先登録がされる」といった認識で、経理部や総務部で実際に何がおこなわれているのかは、ほとんど見えていない状態でした。そのため、現状分析でフローをすべて洗い出したことで、どこにどれだけのコストがかかっていたのかがはじめて可視化されました。「ここはさらに改善できそうだな」「ここは親会社にお任せして、ここは自分たちでやろう」と業務を仕分けていく際にも、すごく役立ちました。
――しっかり現状分析をしたうえで、新たなフローの構築と実装を進められていかれたということですね。実装を進めるうえで、特に大変だったことなどはありますか。
動くはずのものが動かないとか、こことここを繋いだはずなのに想定した通りに入力されないということが何度かあって。トライアンドエラーを繰り返しながら、ちゃんと動くように構築を進めていく作業は、けっこう大変でしたかね。
ただ、システム間の連携と自動化は、想定を超えてうまくいったところのように思います。
――REALITY Studiosさんのような事例の場合、親会社であるグリー視点での全体最適と、企業単体としての個別最適の間で、どう折り合いを付けていくのかというのが1つのポイントになるような気がします。これについて、何か武田さんが意識していたことなどはありますか。
そうですね、既存のルールを完全に無視するわけにはいきませんし、かといって既存のルールに従っていては事業が前に進まない。グループとして最低限守るべきところは守りつつ、リスクの低いところは自由にやらせてもらうという調整が必要になりました。
その際、合意形成を得るために重要だと思っていたのは、「任せ方を規定する」ということです。「なんでもかんでも自由にやらせてくれ」と言われると、任せる側にとって不安過ぎるじゃないですか。そこで、「このビジネスの特性上、最もトランザクションが多くなる部分はここだから、この範囲は任せてほしい」と、任せてほしい範囲と理由を明確にして交渉しました。一方で、新システムでどのような統制がかかっているのかについても、明示的に説明するようにしました。
――コンサルティング期間の終了後は、メリービズのBPOサービスである『バーチャル経理アシスタント』をご活用いただいていますが、作業の引き継ぎはスムーズでしたか。
これまでグリーの経理部隊がやっていた業務を本当に全部受け取ってもらえるのだろうかという不安はありましたが、引き継ぎ作業自体はスムーズでした。いまもまだ、チューニングしていただいている部分はありますが、一定うまく回っているのではないかと思います。
競争力の源泉となる筋肉質なコーポレートを目指して
――経理DXコンサルティングを通じて、どのような成果が得られましたか。
業務効率とコストの観点から見ると、「従来と比べて半減している」と言えるんじゃないかと思います。以前は、グリー本体で使っていたエンタープライズ向けシステムと経理部にいる専門性の高い人材をお借りする形で使っていたため、システムのチャージ費用も人件費も高額でした。
『バーチャル経理アシスタント』のスタッフの方の専門性が低いと言いたいわけではありません。グリーの経理部門では会計基準に照らし合わせて社内のロジックを考えるようなスキルが求められるのに対し、REALITY Studiosではシンプルに大量のトランザクションをさばくことが求められます。つまり、求められる経理スキルが異なるのです。そして、REALITY Studiosのビジネスにとっては、むしろさまざまな企業で経理の経験を持つ『バーチャル経理アシスタント』のスタッフの方こそが、理想的なパートナーだったのではないかと感じます。
――ありがとうございます。成果の一方で課題に感じられた部分や、今後メリービズに期待することなどはありますか。
大変だったことや改善の余地があるところについて申し上げると、経理DXコンサルティングで理想的な業務フロー図を描いたものの、細かいオペレーションまでは詰められていなかったため、走り出したあとに「これってどうするんだっけ?」ということが起きました。具体的には、システムの初期設定は終わっていたけれど、システムのメンテナンスのルールを決めていなかったとか、既存の従業員のデータは登録したけれど、新しく従業員が増えたときの細部まで至る対応が決まっていなかったりとか。スピード重視で3ヶ月でやっていただいたので、半年ぐらい時間をかけていれば、そのあたりまで詰められたかもしれないですけどね。
今後メリービズに期待することとしては、御社のサービスが、よりいっそう提案型のサービスになるといいなと思っています。メリービズには、さまざまな経理の事例が山ほど蓄積されていると思いますので、クライアントにソリューションを提供する際に、「こうするといいんじゃないですか」「こうしたらもっと楽になりますよ」と積極的に提案いただけると、こちらもその提案に乗っかりながら業務改善を進めていけるように思います。ますます経理・バックオフィスに欠かせないパートナーになるのではないかと。
――ありがとうございます。最後に、武田さんの目指すコーポレートの理想像について教えてください。
理想的には、コーポレートが競争力の源泉の1つになっているという状態を実現したいですね。事業の価値を生み出すのは、一般的には開発部門やクリエイティブ部門など、ユーザーに近い事業部門だとされています。しかし、事業部門が価値を生み出していくためには、原資や資源が必要であり、コーポレートが筋肉質であればあるほど、経営資源の配分を事業部門に寄せることができます。
したがって、単にバックオフィス業務を回すことに留まるのではなく、「どんなコーポレートなら勝てるのか」という視点を常に持ち、「事業に貢献できている」と胸を張って言えるような状態まで持っていきたいですね。
――メリービズとしても、“勝てるコーポレート”のビジョン実現に向けて、精いっぱい尽力させていただければと思います。この度は、お忙しいところインタビューにお答えいただき、どうもありがとうございました!